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第34回 地方出版文化功労賞受賞作

第34回地方出版文化功労賞は、本年7月11日の最終審査会において決定した。同賞は、昨年10月28日から11月4日、米子市立図書館で開かれた「ブックインとっとり2020」に出品展示された全国の地方出版物(対象約250点)の中から、各地区の推薦委員および一般の来場者による会場での投票によりその中の10点を最終候補作として挙げ、8名の審査員が持ち回りで数カ月にわたって審査したものである。
 結果は以下のとおりです。
  
●第34回 地方出版文化功労賞

■『くまもとの戦争遺産 -戦後75年 平和を祈って- 』

 著 者  髙谷 和生(たかたに かずお)  
 発行所  熊日出版(熊本県)
    熊本県 熊本市中央区世安町172   電話096-361-3274 
 発行者  髙谷和生(くまもと戦争遺跡・戦争遺産ネットワーク代表)
 体 裁  276頁  定価 2,300円+税
 発 行   2020年8月15日刊行

著者略歴
髙谷 和生(たかたに かずお)氏
1954年熊本県玉名市生まれ。別府大学文学部史学科考古学専攻課程卒業。
熊本県教育庁文化課にて埋蔵文化財発掘調査等を担当。
主な文化財調査報告書として熊本県では『下山西遺跡』『柳町遺跡Ⅰ』等を、
苓北町では『内田皿山窯跡』の報告がある。
その後は近代化遺産・近現代遺跡の報告として『子どもと歩く熊本の戦争遺跡 
県北編・県南編』『熊本の戦争遺跡』『熊本の近代化遺産 県央編・県北県南編』を分筆。
あさぎり町『陸軍人吉秘匿飛行場』では県内初の戦争遺跡調査報告を担当する。
くまもと戦争遺跡・文化遺産ネットワーク代表。
戦争遺跡保存全国ネットワーク全国運営委員。
空襲・戦災・戦争遺跡を考える九州・山口地区交流会世話人。肥後考古学会幹事。
ピースくまもと設立準備事務局会事務局長。

<選考理由>
『くまもとの戦争遺産 -戦後75年 平和を祈って- 』
熊本県内の戦争に関する物事を網羅的に調査した報告書である。
県内の戦争遺産を軍都熊本市内の諸遺構、旧陸海軍飛行場、本土決戦施設、
軍工場・軍需工場、さらに奉安殿や慰霊碑、空襲・航空資料などに分類網羅している。
主な遺構については様々な資料に基づき施設の建設から戦後今日に至るまでの経緯が
記載されている。現存しない捕虜収容所にも捕虜や市民の言葉とともに言及している
点は特筆すべき点である。
この本の優れた点は

①網羅され、整理された形で提示されていること。

②図面や写真などを多用して、読む者の理解を助けている。
また、平易な文章で綴られていてわかりやすい。

③主な遺構について成立から現在までの経緯が記載されていること。

④アメリカ公文書はじめ様々な資料を、手を尽くして収集していること。

があげられる。
また、巻末のガイドマップ、戦争遺産一覧などはこれから学ぼうとする者にとって良き案
内となるだろう。膨大な時間と労力を費やし、考古学の視点・方法論によりまとめられた
本書は、将来にわたり戦争を語り継ぐ上での大きな財産である。

 

●第34回地方出版文化功労賞 奨励賞

■『海の上の建築革命 
 - 近代の相克が生んだ超技師の未来都市〈軍艦島〉-』


 著 者  中村 享一(なかむら きょういち)
 発行所  忘羊社(福岡県)
    福岡県福岡市中央区大手門1-7-18  電話092-406―2036 
 発行者  藤村興晴
 体 裁  288頁 定価 2,400円+税
 発 行   2020年9月1日刊行

著者略歴
中村 享一(なかむら きょういち)氏
1951年、長崎市飽之浦生まれ。建築家。
芸術工学博士。「一宇一級建築士事務所」代表。
1974年、長崎造船大学工学部建築学科卒業後、白石建設株式会社に入社。
1982年、福岡市で独立し「中村建築設計室」設立。
1987年、松植樹の環境保護活動「はかた夢松原の会」に発足委員として参画。
1997年、九州建築塾(JIA日本建築家協会九州支部)を創設、実行委員長として
プロフェッションによる建築教育を開始。
2000年、「旧長崎水族館保存再生問題」を機に、建築の臨終と再生を考える
「建築再生デザイン会議」を招集し、副議長を務める。
2011年、長崎市に拠点を移動。2013年、「旧長崎市公会堂」の保存再生を求め
「長崎都市遺産研究会」を設立、市民運動を展開。
2016年、九州大学大学院にて芸術工学博士の学位取得(「明治期三菱端島坑の
形成過程に関する研究~端島から軍艦島~」)。
主な受賞歴に
1991年:JIA日本建築家協会オープンデザインコンペ銅賞(「都市の解体と再構築」)、
1996年:UIA 世界建築家連合バルセロナ大会公募論文「住居部門」最優秀、
2003年:日本商環境設計家協会デザイン賞優秀賞(福砂屋松が枝店)、
2004年:第5回JIA 環境建築賞(「E7-project」、現在シェアハウス一宇邨)

<選考理由>
『海の上の建築革命 - 近代の相克が生んだ超技師の未来都市〈軍艦島〉-』
海の上の近代建築群、軍艦島。その島に建設された近代建築の一つの到達点であり、
我が国最古の鉄筋コンクリート高層住宅30号棟。それが建てられるまでの過程を
たどり、明らかにした作品である。
長崎、炭鉱、三菱財閥、建築家的技術者・超技師(スーパーエンジニア)などを
キーワードとして多くの文献・史料をあたり、鉱山開発史、建築史、端島の環境史、
労働環境など様々な視点から追求していくことによって、ル・コルビュジエが近代建築
五原則を提唱する10年前に、世界的に見ても先進的な30号棟ができるまでの
過程と様々な要因による複合産物であったことが説得力を持って提示されている。
また翻って開国以来の鉱山・製鉄・建築などの歩みを理解できる本でもある。
そうした点で、近年数多く出版されている軍艦島関係の本とは明らかに一線を画す
作品であり、新たな視点を与えるものとして高く評価された。
著者の博士論文がベースになっていることから、若干読みづらいところもあるが、
優れた研究書であり、年表・図面・索引等が充実していることにも触れておきたい。


●第33回 地方出版文化功労賞 特別賞


『沖縄 ことば咲い渡り 全3巻(さくら、あお、みどり)』

 著 者  外間 守善(ほかま しゅぜん)、仲程 昌徳(なかほど まさのり)
   波照間 永吉(はてるま えいきち)
 発行所  有限会社ボーダーインク(沖縄県)
   沖縄県那覇市与儀226-3   電話098-835-2777
 発行者  池宮紀子
 体 裁  各324頁   定価 各2,200円+税
 発 行  2020年7月7日刊行

著者略歴
外間 守善(ほかま しゅぜん)氏
1924年那覇市生まれ。沖縄学・言語学・琉球文学 研究などの第一人者。
法政大学沖縄文化研究所長を歴任。『おもろさうし』辞典 編纂など業績多数。
法政大学名誉教授。2012年没。

仲程 昌徳(なかほど まさのり)氏
1943年テニアン島生まれ。近現代沖縄文学研究 者。『沖縄文学の一〇〇年』ほか
著書多数。元琉球大学教授。

波照間 永吉(はてるま えいきち)氏
1950年石垣市生まれ。『おもろさうし』『琉 球国由来記』など琉球文学・民俗文化の
研究。現在、名桜大学大学院教授。

<選考理由>
『沖縄 ことば咲い渡り 全3巻(さくら、あお、みどり)』
16~17世紀、琉球王国で編纂された歌謡集「おもろさうし」から、近現代までの様々な
「うた」と「ことば」のアンソロジーである。
1991年から3年4ヶ月、沖縄の地方紙沖縄タイムスに連載されたものを、このたび書籍と
して発行。その対象は聞声大君や琉球王をたたえ安寧を願う歌から、日々の暮らし、
恋、戦後の一場面まで幅広く、また形式も多様である。
もとより沖縄の言葉であるので、口承されているものなど音だけではまったく意味の
わからないものも多い。そうしたものにあえて漢字を当て、また、新聞連載という制約に
より短いが、背景や意味のわかりやすい解説をつけることによって、うたを理解し
共感するきっかけを与えてくれる。
そのうえで口ずさむことによって、沖縄のうたへ近づくことができるようにも思われる。
沖縄にとって郷土の文化を広く長く伝えることを可能にする地域の宝であるとともに、
その外に居るわれわれが沖縄の言葉・生活・文化に触れられる好著である。

第34回  審査委員(2021年7月現在)

審査員長   齋藤明彦(元鳥取県立図書館長)
審 査 員  岩田 直樹(鳥取県立高等学校校長)
   上田 京子(鳥取短期大学講師)
   山脇 幸人(元倉吉市立図書館長)
   小林 隆志(鳥取県立図書館長)
   岡本 圭司(鳥取県職員)
   岡村 知子(鳥取大学准教授)
   松井 潔(元鳥取県埋蔵文化センター室長)